PiataRomania
わたしのルーマニア雑感

 

Strazi pavate cu piatra (石畳の道)

中世ヨーロッパの町といえば、何を思い浮かべるだろう。小石が敷き詰められた道も代表的な景観ではないだろうか。歳月を経て磨かれた石畳には歴史を感じる。ルーマニアも例外ではない。

はじめてこの国を訪れた時のその印象は石畳の道とともに思い出される。ブカレストの中心に近いC.A. ロセッティ通り(St. C.A. Roseti)に面したアパートに滞在していた。この国でむかえたはじめての朝、目覚めると ひとり散歩に出た。さほど早朝だとは思わなかったが人通りはなく、ただぶらぶら歩いた。古い石の道は少しごつごつしていて、かかとのある靴や慣れない者には歩きにくい。しばらくすると、通りの先のほうから、軽やかな蹄の音が聞こえてきた。そして子供の甲高い叫ぶような祈りのような声。それは馬車に乗ったチガンの家族だった。静かな石畳の通りに響く音。異郷の地にいることを実感した。

散歩は毎日欠かさなかった。大使館が建ち並ぶ辺りは、古いお屋敷がまだ多く残っている。どのくらい昔のものなのだろうか、窓枠の装飾をみても贅沢だった時代が偲ばれる。塀の内側の中庭やそこに暮らす人物を想像しながら歩いていると、ミルチャ・エリアーデの作品が浮かんできた。『ホーニヒベルガー博士の秘密』(直野敦・住谷春也訳)の中で、主人公が不思議なお屋敷に招かれる場面がある。きっとこの辺りのお屋敷がモデルなのではないだろうか.......と戦前のブカレストを思い浮かべながら、少し歩きにくい石の道を楽しむように散歩した。

日本へ帰ってまもまく、ふと気づいた。歩いていて何か感触が違っていることに。わずか2週間足らずの滞在であったが、少し苦労しながら石畳の道を歩いた感触が身についていたとは.... 妙に懐かしい気がした。

その石畳も掘り起こされて、アスファルトに変わろうとしている。少し悲しい気もする。

・:  ルーマニア雑記帳 4  :・ 

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